2025年12月23日火曜日

運営費交付金と研究助成(競争的資金等)は非相互補完

 今年度補正予算と来年度当初予算で国公立大学の運営費交付金正常化の動きが見られます。
財務省の抵抗を排し、長期的にこの方向性が保証されなければ、国公立大学の崩壊は致命的なものになることが予想されます。

これに関連して、国公立大学の内情をご存じない一般の方の認識を混乱させるような議論が目立つため、予算の違いについて整理しておきます。
結論として、運営費交付金の不足を競争的資金等による研究助成で補完することは制度上不可能であるということです。
財務省は任意の予算を削減することに注力しており、この件に関しても運営費交付金の不足を科研費等の競争的資金で代替させることが可能であるかのような虚偽情報を流布することによって、民意の混乱を企図しているようですが、制度の実態としてそうはなりません。
よって、運営費交付金の正常化が遅れることすなわち国公立大学の組織基盤の崩壊と同義となります。

1. 運営費交付金

運営費交付金は、使途を制限されない形で各大学に配分される基盤的経費です。
通常の運営に必要となる経費、特に安定的な形で雇用される教職員の給与は基本的に運営費交付金から支出されます。
ここ数十年にわたる運営費交付金の削減により、教職員を必要数採用することができず、組織基盤が崩壊してしまった事例が後を絶ちません。

2. 競争的資金等による研究助成

ここで言う資金の事例としては、

科研費(日本学術振興会)
安全保障技術研究推進制度(防衛装備庁)
JST-Mirai、CREST、ERATO、さきがけ(科学技術振興機構)
新エネルギー・産業技術総合開発機構公募事業

等による競争的研究助成、または民間からの研究助成等が該当します。

これらの予算では、高々有期雇用の任期制教職員を雇用できるのみであり、安定雇用の教職員は採用できないので、大学の人的基盤を支えることは不可能です。
なお、大学では任期付き教職員が担当できない業務が多数存在し、さらに教授以上でなくては触れられない情報や担当できない業務も存在します。

以上のことから、競争的資金は運営費交付金を代替しません。
運営費交付金の削減は、組織基盤の崩壊と同義となります。
また、運営費交付金の正常化による大学の組織基盤立て直しがなければ、これに基づく研究基盤・教育基盤も瓦解している状態になるため、競争的資金等の研究助成による所期の効果を期待できなくなります。

p.s.

なお、左派系など一部では「運営費交付金を削減して大学を締め上げ、``軍事研究"に誘導している」なる陰謀論も散見されます。
上記の理由により、私見ではこの論理は成立しないと考えます。
運営費交付金が削減され締め上げられているのは事実ですが、防衛装備庁の研究助成に当たっても、運営費交付金の代替にはならないからです。
防衛装備庁による研究助成の公募要領を見れば確認できることですが、公募研究課題にある程度の括りが指定される程度で、基本的に同予算は科研費とほとんど同じものです。

2024年5月22日水曜日

公募人事(特に地方国公立大学や私立大学の工学系)を目指す若手の方へ

 以下この記事で述べることには, 

  • 各大学の人事選考に関わる機密情報
  • 「受かる書類の書き方」
の類は含まれていません.
この記事で筆者が想定している読者は, これから地方国公立大学や私立大学で, とりわけ工学系への公募をお考えの数学・数理科学の若手研究者です.
自身の専門分野で研究中心のポジション(例えばいわゆる旧帝大や数理解析研究所など)へ公募する場合には, この記事の内容は当てはまらない可能性があります.


1. 研究

人事選考に筆者は関与したことがないので, 実際にどのような判断がされているかは断言できませんが, 数学・数理科学の研究者が工学系に応募する場合, 一般に研究業績が多い方が採用されるという単純な判断ではないと思われます.
共同研究でも良いので毎年コンスタントに(例えば年1本とか)論文を出し, 定期的に研究集会に顔を出して活動をしていれば, 公募に出す必要条件の意味で基本的に問題はないように思います.

そもそも工学系は「数学の先生」に研究業績など求めない, という悲観的な声もあるようです. 
正直, 内部に入ってからの実務面ではそれは違うと言い切れない部分も多分にあるとは思いますが, そうなる大きな原因は財務省の方針で人員削減され教授陣が雑務で忙しすぎることにもあります.
工学系の構成員もこのような内容を言い切る人は少数と思われるし, 特に国公立大であれば, どの分野の研究者であれ研究費を獲得して間接経費を入れてくれる方がプラスになるのは間違いないので, 最初からこの悲観論に乗っかって研究を軽視しすぎるのもよくないようです.

また, 採用後の事も考えましょう.
研究中心のポジションでない場合, それでも研究を続けるか, そこで研究から退出してしまうかのターニングポイントになることがあります.
実務上, 工学系に所属する数学教員は研究業績を出すことについて組織的にプレッシャーをかけられたりしなくなります. (なお, 筆者の所属大では研究は人事考課上カウントされているので, 別に研究業績が無視されているわけではありません.)
研究中心の大学組織で院生やポスドクをやった方にとっては大きな違いだと思いますが, 周りに専門が近くどんどん論文を出すような研究者が何人もいるわけでもなく, ある意味で研究は「当たり前のこと」ではなくなっていきます.
そのような環境下でも研究を続けるには, 自律的に進めることと, 多忙な業務の中でスケジュール調整をする計画性が必要です.


2. 教育

「公募書類の書き方」以前の問題として, 工学系の公募に応募するのであれば, 少なくとも以下に挙げる科目は全て教えられる, または今後担当することになれば勉強する覚悟があることを明確にしておきましょう.

  • 微分積分
  • 線形代数
  • 確率統計(最低限, 確率分布, 点推定, 区間推定, 検定の基礎まではできること. データサイエンスの流行に伴い, 近年はさらに要求が増える傾向もあります.)
  • 常微分方程式
  • ベクトル解析(機械工学ではできれば初等テンソル解析まで.)
  • フーリエ解析(フーリエ級数, フーリエ変換, ラプラス変換を各分野の工学的応用を拾う形で教えること. 数学科で教わるフーリエ解析とはかなり趣が違う. 収束の厳密な理論などに傾倒しすぎないこと.)

全体的に, 工学的応用実態や学生の実情を無視して, 理学部数学科で教わったようなのと同じ教え方をすることは好まれない(場合によっては何らかの形でダメ出しされる)可能性があります.
具体的には, 精密な理論体系や厳密な証明に拘泥して, 基礎的な計算力とか, 工学で実際に必要となる応用数学を全く無視するような教え方は, 実務上中長期的に色々と問題を起こす可能性があります.
また, 最近の傾向として, 微分積分と線形代数の準備が整わないうちから確率統計を教えるような動きが強まっています.
数学・数理科学の研究者としては, 真面目な方ほど最初のうちは理論の体系と厳密性を気にしないような教育に違和感や抵抗を感じると思いますが, 色々と工夫して対処できるように準備をしましょう.
最初のうちは, 力学や電磁気学との関連を意識すると良いかもしれません.

公募人事においては, 工学部での教育に配慮ができる人の方が, あくまでも数学者としての立場でしか行動しない人よりも好まれる可能性が高いと思います.


2018年10月22日月曜日

確率・統計I 第3~4回

第3回は条件付き確率, 事象の独立性, 及びこれらの演習問題.
第4回はベイズの定理とその具体的な演習問題について.

次回からは確率変数に入る.

線形代数学II 第3~4回

第3回では, 線形写像の核, 像を求める問題.
第4回では, 基底に関するベクトルの成分表示と, これに併せて線形写像の表現行列を求める問題の前半部分(ほぼ自明な標準基底の場合)まで.
次回は, 標準でない基底が指定された場合について.

2018年10月18日木曜日

スペクトル・散乱京都今出川シンポジウム

開催日時が以下のように決まりました.


スペクトル・散乱京都今出川シンポジウム

下記の要領で, 研究集会「スペクトル・散乱京都今出川シンポジウム」を開催致します.

日時 : 2019年1月12日(土)-14日(月祝)
会場 : 〒602-8580 京都市上京区今出川通烏丸東入 同志社大学今出川キャンパス 良心館RY105
https://sites.google.com/view/specscattimadegawa2019/

2018年10月16日火曜日

日本数学会奨励研究生

日本数学会が新たな取り組みを行うようです.
緊縮財政で若手の研究環境は厳しいものが続いています.
こういう機会は一つでも多い方が良いように思います.

「日本数学会奨励研究生」の募集について(11月1日~11月30日)
http://mathsoc.jp/publicity/news20181003/2019shourei.html

2018年10月4日木曜日

確率・統計I 第1~2回

初回は統計に関する概要と, なぜ確率が必要なのかという点について.

第2回は, 古典的確率の定義と例.
特に, 根元事象, 全事象(標本空間), 事象等の確率の概念についての解説.

場合の数を数えることはできないが, 直観的には明らかに確率があるような事例ではどのように確率を定義すべきかという問題.
コルモゴロフによる公理的確率の定義.

公理的確率は抽象的なので難しく感じたかもしれないが, 高校までに学ぶ直観的確率の一般化なので, これまで使ってきた確率の性質や直観的な感覚は今後も通用する.
ただし, 今後の確率統計の学習では, 確率を求めたい事象について集合の言葉で整理することが理解のポイントになる.
次回以降, 極力具体例を使って解説する.